芸術工学会2023年度春季大会の展示作品

投稿者 森本康平
投稿日

2023年6月3日に長岡造形大学を会場に芸術工学会2023年春季大会が開催されました。

第1部のシンポジウムでは、はじめに東京藝術大学の鈴木太朗先生と長岡造形大学デザイン学科の山本信一先生によるプレゼンテーションが行われました。その後、同じく長岡造形大学デザイン学科の平原真先生が進行役として加わり、「表現とテクノロジー」というテーマに基づいた濃密なトークセッションが行われました。

一方、シンポジウム会場となった円形講義室の周辺では、テクノロジーを活用した様々な作品展示が行われていました。同時開催されていたテクノロジーxデザイン領域の展示は、その後1週間ほど展示されていましたが、こちらは当日限りで撤収となったので、見逃した方も多いかと思います。

そこで今回はそちらの一部を簡単にご紹介します。


カズヤシバタ
ギリギリ役に立つ発明シリーズ「おやつタイムキーパー」「つぶつぶトルネード」
HP:https://www.seevua.com/
「ギリギリ役に立つ」というラインを攻め続けているシバタさん。
作品が持つユーモアに隠されていますが、随所に高いエンジニアリングスキルが垣間見られます。
是非HPもご覧ください。

中林鉄太郎/東京造形大学
ポリカーボネート樹脂による細軸・長尺の一体成型で実現したデザイン 土中の水分量を見える化するツール。細くて長い形状をポリカーボネート樹脂で成型するのは難しいが、そこを解決して、このデザインを実現したとのこと。
この手のツールは機能重視で開発されることが多いですが、意匠にまでこだわっているのが珍しいですね。
ちなみに家庭で植物を枯らしてしまう原因の大半は、水の「やり忘れ」ではなく「やり過ぎ」らしいです。


真壁友/長岡造形大学
エンプラ対応3Dプリンタの開発
真壁先生によるエンプラ出力用の3Dプリンタ。
融点やガラス転移温度の高く、造形が困難なPOM(いわゆるポリアセタール)のフィラメントを出力するために、自作3Dプリンタをベースに出力温度と耐熱温度を爆熱にできるよう魔改造されています。
謎の赤い液体がMADで最高です。


伊東嗣泰/長岡造形大学プロトタイピングルーム
http://mhlabo.web.fc2.com/profile1001.html

もはやお馴染みとも言えるプロトタイピングルーム伊東さんの自作ホバークラフト。
いつも良い意味で長岡造形大のイメージを変えてくれているように思います。
この日も絶好調で、来場者の方々が乗って楽しんでいました。


森本康平/長岡造形大学
プログラ民具私、森本のプログラ民具という作品で、プログラミングのような考え方で、必要な機能を持った道具を設計するシステムです。
レゴブロックのように組み合わせるver.1.0、ブラウザ上で3Dデータをカスタマイズできるver.2.0に加え、ver.3.0として生成系AIを活用し、モデリング作業を一切することなく爆誕させた未知の日用品を展示しました。


冨永敬・増田雄太・大西拓人/インスタ部
Contact
HP:https://instabu.net/
そして最後に、関西を拠点に活動するデジタル・メディアアート、インスタレーション作家のためのコミュニティ「インスタ部」に所属するメンバーによるContactという作品を、少し詳しく紹介します。

これは、ブラウン管テレビの砂嵐にGoogle翻訳アプリをかざすことで、人間には知覚できないメッセージを取り出すことを試みた作品で、「ランダムノイズから特徴点をご抽出するOCRならではのふるまいと、他者の言葉を読み取り変換し理解しようする翻訳という行いとを重ね合わせ体験化した(キャプションから引用)」ものです。
テクノロジーの「機能」だけでなく、それを実現する「仕組み」に対する深い理解があり、それらと人間の行動の深層的な意味を結びつけ、未知の思索体験を生み出している点に感銘を受けました。
非常にシンプルな構成なのに、様々なことを想起させられる非常に面白いものでした。


このブラウン管のフォルムに懐かしさを覚えますが、実はアプリもソフトウェアにしては年代物と言えるものだそうです。
というのも、最新バージョンのGoogle翻訳アプリでは仕様が変わってしまい、ノイズの読み取りができないそうで、
このためだけにアップデートせずに、古いiphoneとともに過去のバージョンを保持しているそうです。
テレビのようなプロダクトは、時に保存の対象となったり、進化の記録としてアーカイブ化されていきますが、ソフトウェアはいちいち古いバージョンを残そうとは思わないですし、サイクルが早すぎて記憶にも残らない場合が多いと思います。

しかし、この作品を通じて、過去のある瞬間のソフトウェアの姿が切り取られ保存されており、メディアアートが日々進化するテクノロジーのアーカイブとして機能している点も興味深いと思いました。

以上、簡単ではありますが当日の作品紹介でした。

どれも自身の興味関心を突き詰めた”濃い”作品だなと思いました。

各作品に含まれる視点や技術もさることながら、このテンション感も参考にしてもらえればと思います!

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