SFプロトタイピングの実践

投稿者 森本康平
投稿日

“SFプロトタイピング”という言葉が初めて使用されたのは、インテル社のフューチャリスト(!?)Brian David Johnsonが 2011年に出版した書籍「Science Fiction for Prototyping: Designing the Future with Science Fiction(邦題:インテルの製品開発を支えるSFプロトタイピング) 」と言われています。当時はそんなにバズった記憶はないですが、数年経ってから俄かに脚光を浴び始め、日本でもメーカー系の企業を中心に、自社の技術ロードマップの発信や顧客とのコミュニケーションの手段として活用する事例が見られるようになりました。

<SFプロトタイピングの事例>
建設的な未来(清水建設)
日産未来文庫「答え合わせは、未来で」(日産自動車)
ONE DAY, 2050 / Sci-Fi Prototyping(ソニー)

ただ、現時点でも明確な定義や確立された方法論は存在せず、実践者はプロジェクトの目的に応じてプロセスとアウトプットを考える必要があるようです。 そのため、「SFプロトタイピングとは何か?」と聞かれると返答に困るのですが、宮本らの著書「SFプロトタイピング/SFからイノベーションを生み出す新戦略」では以下のように記述されており、これは近年の実践事例で共通する考え方だと思われます。

「SFプロトタイピング・・・それはサイエンス・フィクション的な発想を元に, まだ実現していないビジョンの試作品=プロトタイプを作ることで, 他者と未来像を議論・共有するためのメソッドである。」


SFプロトタイピングはビジネスシーンから生まれた考え方で、現在も企業が活用することが多いのですが
、SFを考えるためには、様々なデザインスキルや思考力が求められることから、デザイン教育の中で活用することで多くの学びがあるのではないかと考えます。

例えば、
未来のガジェットを考えることは、プロダクトデザインに、
舞台設定を考えることは、建築デザイン、都市デザインに、
そしてなにより、シナリオの軸となる対立構造を考えることは、「問い」を考えるという、重要なスキルの向上に繋がるように思います。

もちろんシナリオ制作のベースとして、サイエンス・テクノロジーのほか、社会システム、政治経済、哲学など、リベラルアーツに類する知識も必要になるでしょう。




そこで、SF制作を通じて、デザインスキルの向上に加え、普段はあまり接する機会のない幅広い知識を得ることができるという考えの元、近年行われているSFプロトタイピングの事例を参考に、デザイン教育を重視した「Future Prototype Learning」として再定義し、地域協創演習の一環として実施しました。

プロジェクトには、様々な学科、学年から6名の学生が参加。また、情報のインプットと整理を支援するため、大学院生2名と地域協創課職員1名がメンバーとして加わり、プロジェクトを進めました。

実施時期:
2022年10月~2023年2月

参加メンバー:
美術工芸4年-1名
プロダクトデザイン3年-1名
視覚デザイン4年-1名/3年-1名/2年-2名


そして、参加メンバーが制作した6篇のSFシナリオと、リサーチやブレストで生まれたキーワードをまとめ、オリジナルのZine[Future-Prototyping-Learning Magazine 0.0]を制作しました。

こちらからダウンロードできます。


それぞれのショートストーリーは、過去・現在・未来のテクノロジーや, 社会問題, 価値観のリサーチを通して, 30年後の社会のワンシーンをSFシナリオという形で具体化したものになります。
当初設定したリアリティラインを逸脱した作品もありますが、シナリオから問い発見し、議論を行うことは可能であると判断できたことから、そのまま成果物として掲載しました。

これらの作品を通して、皆さんは何を感じるでしょうか?

登場人物に共感できる?共感できない?それはなぜ?
登場する未来ガジェットを使いたいとは思わない?そのこだわりの要因は何?周りが全員使っていても拒否できる?
いくら未来といっても、そんなことが社会に普及するはずがない?似たようなことは既に起こっており、それは自然と受け入れられているよ。それはOKなの?
など、、、

残念ながらZineの中には記載できていませんが、メンバー間での議論は時間が足りないほどでした。

ぜひ皆さんも本作品をベースに様々な人と意見交換をしてもらえると幸いです。

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